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装甲悪鬼村正
装甲悪鬼村正



メーカーNitro+
シナリオ■■■■■■■■■□ 9.5
グラフィック■■■■■■■■■■ 10
キャラクター■■■■■■■■■□ 9.5
音楽■■■■■■■■■ 9
テーマ■■■■■■■■■ 9
総合【S】 94点

正義乱舞祭

まさに読んで字の如く入魂の作品です。「正義」をテーマに添え、本来のニトロらしさを前面に出し泥々に捏ねあげて高く高く積み上げた作品でした。

2009年最高峰と呼ばれる作品ゆえ期待も大きかったのですが、ここまでの完成度を見せられたら諸手をあげるしかないってなもんですね。

【シナリオ】
舞台は少し異なる黎明期近代日本をベースとした国家、大和。この世界における最強兵器は「劔冑」と呼ばれる装甲型の鎧。劔冑を装甲した武者たちは空を舞い、鉄塊をも破壊し、最強の戦闘兵器としてこの時代の軍事を支えています。先の戦争により敗戦国たる大和は現在戦後の混乱期……、圧政を敷く六波羅幕府、大和の占領元でありながらも沈黙を貫く大英連邦を主とするGHQ、権力の奪還を目指す朝廷と、未だ大和の治安は定まらぬ日々。さらに、出現とともにその場にいる全ての人間を殺戮する謎の武者「銀星号」の存在が人々の生活に影を落とします。

そしてそんな謎の武者銀星号にひとり立ち向かう、深紅の劔冑「村正」と、その仕手である警察官、湊景明。果たして村正や銀星号の行動意図とは? 六波羅幕府やGHQの目論見とは? 大和全土を巻き込んだ激動の戦乱が今明けようとしています。


以上、ざっくり粗筋ですね。基本的に主人公は景明なのですが、冒頭第一章においての彼は脇役であり、まずは首都鎌倉に住む高校生たちを主軸として物語が進みます。突如失踪してしまった悪戯好きなリツを、クラスメイトの雄飛、小夏、忠保が捜索するという展開です。

そして、主観的に動いていて完全にメインキャラと思わせていた彼らを惨殺や蹂躙など容赦なく不幸のどん底に叩き落すシナリオは、実に狂った鬱展開でしたね。探し人のリツは既に惨殺済みで登場すらせず、さらにヒロイン小夏を四肢切断してレイプさせるとか、レーサーになる夢を追いかけている忠保の目を潰すとか、主人公格の雄飛を斬首で殺すとか、どんだけだよと。もうホントどんだけだよと。

体験版もここまで、当時かなり話題になっていたことを記憶しています。つかみとしては良くも悪くも巧く出来ていると思います。


つかみの第一章、そして景明を主点に添えるメインストーリーは二章からとなりますね。

とにかく濃ゆいシナリオですが、そのシナリオの構成、各キャラクターの動かし方、緻密によく練られています。各々の登場人物は、それぞれの行動理念をもってしてシナリオにうまく絡んでいますし、さらに、六波羅、GHQ、景明が属する朝廷サイドのパワーバランスのとり方や、覇権を取るための各々の策略などの政治的な思惑も、押し引き絶妙なバランスで描かれます。

そして、長いストーリーに多勢なキャラクターと、読み手にも体力を求める作品ですが、実は起承転結に忠実にのっとった綺麗な構成をしていますね。一、二、三章は、各キャラの境遇や行動を説明することと、銀星号という存在を読み手に訴えかけるためのシナリオ群です。話は別物ですが章の持つ役割は全て共通しています。ここが相当量のボリュームを持った「起」

四章は景明の回想シーンにて話の受けと作品世界の広がりをもたらす「承」。ここで景明の妹の光が銀星号の仕手であり、二体の村正を兄妹で使うことになってしまった経緯が描かれます。大体の伏線が解消され、後半に向けての準備が整う感じですね。

そして以降個別ルートは、六波羅やGHQの面々を絡めた政治的な戦争と、景明と銀星号の因縁を交差させながら話が進みます。すさまじく動的に進む物語と、景明やヒロインに次々と試練が襲い掛かるまさに「転」。ラストは大抵ビターな結末が用意される「結」

上記、起承転結のそれぞれのエピソードの中身各々も、やはり起承転結を綺麗に組み立てた洗練された構成であるのは読めばわかると思います。



さて、「正義」とは何かを貪欲に描くのが本作の肝だと思います。正義という概念は、何をもってして正義とするのか、善だろうが悪だろうが殺人は殺人という真理を突く子供にはわかるまいなテーマですね。

敵をひとり殺すことで味方もひとり殺すことになる「善悪相殺」という恐ろしい縛りを持つ妖甲村正。ですがそれは名工村正一門が、各々の正義と悪は表裏一体にて立場が変わればどちらにも転ぶ、という真理と葛藤を見出してしまった先にあるものでした。

この作品がシナリオ的に成功できたポイントは、「敵味方含めて各々が己の正義を貫いている」、ここにあります。その分ボリュームは凄いですが、シナリオやキャラの描き込みは凄いですよ!



正義を盲信する少女、綾弥一条ルートは、正義のお手本ともいうべき図式、「勧善懲悪」を考察するルートです。正義を語るうえではずせないこのテーマ、上記した真理を証明せんと正義を打とうとする景明と、平和を求めて己の正義を貫く一条の、正義と悪を対比させる最後の一騎打ちシーンは胸が奮えました。敢えてその答えを提示しないビターなラストも良しです。


GHQの大尉、大鳥香奈枝ルート、非常に考えさせられるルートでした。景明は、本来優しい人間でありながらも信じた者たちを村正の呪いにより手にかけ続けていますので、精神的にはもう崩壊しかかっているのですね。すべてが終わった後に自分が「正義に裁かれ殺される」から、自分をギリギリ行動に駆り立てることが出来る。この一点が在ることで彼はなんとか自分の存在を保っているのですね。

しかし彼の状況を鑑み、与えられようとする恩赦に対して、彼は自分の拠り所をなくしかけます。許されること即ち彼が救われることではないのですが、そこで、雄飛の復讐のために景明を絶対殺すと断言する香奈枝の存在は、矛盾するように彼の生きる糧となるのです。この狂気的な場のもたせ方は本当に見事です。正義、裁きを圧倒的な理由から描いたこの構図、鳥肌が立ちました。


そして最も重厚で読み応えのある村正ルート。村正側から見た回想シーン、村正が本来の人間の姿を得る展開、互いを利用しあうのではなく互いを真のパートナーとして戦う決意をする関係性など、劔冑"村正"いう存在に強く焦点が当たります。景明と村正、ともに善悪相殺の真理を受け入れ、そのうえで自分たちはどうあるべきか……、それまでの章や他ルートで葛藤していた道をふたりで模索する展開はメインルートにふさわしい出来です。

また、銀星号の正体である、光が本当は過去の病魔から脱しておらず、銀星号事件や目の前で動いている元気な光は、彼女が深い眠りに入ったときの夢の具現であるというカラクリも鮮やかでした。銀星号の異常なまでの強さ、達観すらある圧倒的な信念、夢物語ほどの野望、それは光の夢であるがゆえの純粋化された思いの具現。非常に美しかった。

ただまぁ個人的には、ラストの地中深くに眠る金神様を呼び起こすくだりから、光が神になってしまうあまりにも派手な流れは、それまでの闇の底を這うようなストーリーを置き去りにして一気にエンターテイメント色が出てきてしまうため、もっと裏を行ってほしかった気はありますね。宇宙空間での戦闘とか笑。

ですが、それくらい無敵極まりない銀星号を倒すのが、許せない自分を先に殺す、つまり自害することで、愛する光を打破するという、作品テーマともいうべき善悪相殺にもとづいた方法だったこと、これには僕は大賛辞を送りたい!! 長いストーリーの中で、景明が呪われた自分をいかに憎んでいたか、そして光をいかに誰よりも大切に思っていたかを丁寧に描いていたからこそ、本当にこのシーンは存在感を放っています。この方法の成功は、必然的に光を景明が愛していたことを証明するため、光も救われるんですよね。思わず目頭が熱くなりました。


まあその後に、村正編と称してエピローグと呼ぶには長すぎるほどのエピローグがあるのですが、これは村正とのイチャラブ展開ですので、オマケ的なもんかと。クライマックスのピークタイムは上記「善悪相殺」を用いた光の打倒シーンです。


以上長くなりましたがシナリオ雑感ですね。奈良原一鉄さん、はじめてプレイしましたが、構成立てのうまい方ですね。もう少し全体の肉をそぎ落とせればもっと広く愛されるライターさんになると思います。



【グラフィック】
ニトロプラスですから、大工数をかけて素晴らしいゲームに仕上げてくるであろうことは想像できていましたが、それにしてもこのグラフィック、ゲームデザインは素晴らしい。作品の雰囲気を最大限に引き出す全体的なデザインはさすがのニトロですね。

また、世界観に準じて縦読みなのですが、これも最後まで気にならず読み進めることができました。気になる人は気になるかもしれません。

さらに、一枚絵のクオリティの高さ、枚数の多さも言及しておきたいところですね。なまにくATKさんですか、うまいですねえこの方。なまにくあったかい、と読むのですか笑。ずーっとニトロでは彩色担当だったのですが、本作にて初めてのキャラデザ、原画担当とのことです。もともと素晴らしい実力をお持ちの方であったとは思うのですが、初作品にてこの仕事ぶりは感嘆ものです。肉感的でバランスのいいキャラクターと、表情の作り方、構図、どれをとっても高い次元でまとまっています。

劍胄などの3Dまわりも力が入っていますね。グラフィック点は総合的に文句ナシの出来でしょう。


【キャラクター】
まず! 蜘蛛かわいいよ蜘蛛

ただの鉄の鎧だと思っていた蜘蛛が、あんなに可愛いとは。後半に出自が明かされ人間の形を取ることに成功もしますので、そこからの村正は可愛らしかったですね。若かりし頃に劔冑となったため、若干未熟なところも好印象です。

主人公の湊景明、彼はその背負った呪いや本来のキャラから、銀星号を打破する目的以外にはさして能動的ではないんですね。そこが上手かった。普段は恐ろしくダウナーながらも、使命に突き動かされて苦しみながらも懸命に行動している様が怖いくらい丁寧に描けていて痛々しかったですね。

また、善悪の表裏一体を謳う物語であるだけに、サブキャラクターの描きこみも非常に深かったです。一見敵サイドに見える六波羅面々やGHQ各々のキャラクターにも彼らなりの行動動機がしっかりと説明されます。特に六波羅の四公方である、茶々丸、童心、獅子吼、雷蝶、彼らのキャラ立ちといったら! 各々の行動理念、人間臭さ、そして勇猛さといった要素は四者四様に目を見張るものがあります。景明はまだしも、ヒロイン勢は哀しいかな完全に食われていました。

話の楔役となる湊光も良かったな。彼女の正義の描き方は狂気的で美しく、圧倒的です。景明に、兄であると共に父としての愛情をも求め、その歪んだ倫理観を正当化するために神になろうするというこの発想。ライターの力量を感じさせます。


【音楽】
音楽も作品世界観を底上げする雰囲気のあるBGMばかりです。日常シーンは和楽器やコントラバスを用いた生楽器の音色を中心に添えた綺麗なBGMが、戦闘シーンはニトロ本来の得意とするゴリ押しのギターロックが、うまいこと場面場面で機能していたように思えます。

歌付曲は5曲。ニトロ節全開で熱を上げるOP「MURAMASA」は作風によく合っていますね。個人的にはイントロが切なくEDや泣き所で流れる「落葉」、ベースを走らせるサビでの突き上げが格好よく且つ使いどころがうまい「The Call」が好きです。


以上、バルドスカイと並び、2009年度最高峰と呼ばれる装甲悪鬼村正でした。全方位的にニトロプラスの底力を見ました。合掌。



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テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【そして明日の世界より――】
そして明日の世界より――



メーカーetude
シナリオ■■■■■■■■■□ 9.5
グラフィック■■■■■■■■■■ 10
キャラクター■■■■■■■■□ 8.5
音楽■■■■■■■■■□ 9.5
日常■■■■■■■■■■ 10
総合【S】 92点

滅びることのない希望

開始5分で名作の香りがしましたね。温かく流麗なBGM、美しい背景CGとキャラ絵、自転車での夕方の帰り道で次々と現れる、王道ながらもテンポよく紹介されていく登場人物たち。健速さんのテキストもそうですが、etudeの演出の丁寧さ、世界観作りの巧みさにはグッと来させるものがあります。

前評判の高さから期待していましたが、ここまでとは正直思っていませんで、予想の上をいく素晴らしい世界観とシナリオに感動しました。くそったれ、これだからエロゲはやめられねーんだ


【シナリオ】
舞台は都会から離れた静かで美しい島。かつては栄えた島もいまや過疎化が進み、少ない人口で互いを支えあう静かで穏やかな暮らしがそこにはあります。主人公の葦野昴、お隣さんの幼馴染夕陽と姉であり教師の朝陽、級友にして親友の青葉、病弱な転校生御波、それが彼らの形成する学園生活の全てです。

そんな彼らに突如襲いかかる、3ヶ月後に小惑星が衝突し世界が滅びるという揺るぎない事実。小さな社会の中でさしたる混乱が無いながらも事実を受け入れようともがく面々。世界の終末を若くして迎えなければならなくなった彼らは、この小さな世界で何を思うのでしょうか。



以上あらすじですが、しかしこの健速さんという人、閉じた世界での緩やかな時間を描かせたら右に出る者はいませんね。序盤の日常パートなんて本当に世界に引き込まれました。キャラクター同士の信頼関係、会話、優しさ……、文章を越えてにじみ出てくるものがあります。小惑星衝突が政府から発表されOPムービーが差し込まれるまでの導入部分だけでもそれなりの尺が割かれていますが、ここでの学園生活や放課後、家族とのやりとり、抜群の雰囲気です。それだけに終末に突き進むストーリーだというのが勿体無い、とすら感じてしまいました。


小惑星衝突の報道がなされてからの各人の反応や、喧騒とはかけ離れた小さい島における静かな滅びが痛々しくてうまいですね。舞台が別の場所であれば、「SWAN SONG」のように群衆パニックを描かなければならない。もしくは「終末の過ごし方」のように、世界が事実を受け入れた後の話として展開するしかない。そこで舞台をこの小さな島に限定することで必要最小限の混乱に留めたのはうまいところで、だからゆえに身近な人々の内面を丁寧に描くことができたともいえます。


また、昴のみが災害回避の避難シェルターに当選するという事実が、物語を深くします。日常シーンは綺麗に流れていくのですが、毎日同じような雰囲気の繰り返しであることは否めず、ともすれば飽きられがちな日常を重ねていくことに対して、ダレるギリギリの線でこの件を入れ込み昴の思考を動かすのは良いタイミングだったといえます。

前日、彼の独白で、「普段ならば気にならないものに目がいくようになった。俺の生活は関わりのある人たちなしには成り立たない」と、ひとつの到達を得る直後のことだったのがまたうまい。助かったところで彼が何よりも大切にしていた人たちとの別れは必至ですが、一方で生きたいと願う自分、そして両親の強い思いがのしかかります。


昴に全幅の信頼を寄せるお子様系天才型幼馴染、日向夕陽ルート。シェルター行きを夕陽のためにあきらめる昴と、逆にそれにより昴の死を自分のせいで確実なものにするジレンマが夕陽を強く葛藤させます。ラスト、これまで夕陽のためにすべてを行動していた昴が、自分のわがままを告げるシーン、つまり自分のために行動してほしいと夕陽に懇願するパラドックス的なシーンは実に熱かった。これは「遥かに仰ぎ麗しの」などでも見られる健速さんの得意パターンですね。それまで行動的だった主人公がラストでヒロイン側の力を得るという逆転手法です。

これ、姉の日向朝陽ルートも同じ構図を山場で使うんですよね。つまり朝陽も夕陽を守ることに固執して、彼女の意思を汲み取りきれていなかったことですね。3人が3人を愛して思いを注ぐことで、その各々の行動が双方向になっていないというあまりにも優しすぎる間違い、このあたりは綺麗でしたよ。しかし彼女のラストは、朝陽夕陽昴の3人END、昴が関係云々抜きにしてふたりの笑顔を守り続けることを誓うENDですが、下世話な言い方をすればハーレムEND的な感じでして、良かったのでしょうか笑。


そして、このメインヒロイン姉妹よりも、シナリオ的にもキャラクター的にも、クラスメイトの青葉、御波の方が立っています。キャラデザもこの二人の方が断然かわいいですし。

快活で昴の相棒として描かれる樹青葉ルート、実は嫉妬もするし怯えもするヒロインの中では最も女の子らしい本性を持っています。滅亡発覚を機に本当の自分が浮き彫りになるという展開としてはまぁ王道なのですが、とにかくキャラと青山ゆかりさんの演技がはまっているため、とても魅力的に描かれます。キャラ絵も一番好きだな。髪を下したヴァージョンが用意されてるところもグッジョブ! ただモロにヤンデレ化して本来の自分を表現しだした時はどうしようかと思いましたが笑、そこは昴君しっかりと押さえてくれましたね。ラスト付近の本当の自分を表現できるようになった青葉は本当にかわいくてたまらんです。


療養のために島に引っ越してきた転校生水守御波ルート、病弱キャラではあるのですが、彼女はしおらしすぎず、意外と表情豊かでちょいちょいウィットに富んだ余裕を見せる部分がキャラを立てていますね。また彼女は常に病気による死と隣り合わせの生活をしているだけに、唯一終末を抵抗なく受け入れることのできる精神を持っています。しかし昴をはじめとした大切な日常を手に入れ、皆と同じ「普通」を手にすることで初めて現実に怯えてしまうところからが本ルートの肝でしょう。本ルートは4ルートの中でもっとも美しく綺麗に言葉が紡がれていくルートだったと思います。特にラストの星空を眺めながらの昴との会話は引き込まれました。


そしてノーマルルート、これは昴がどのヒロインも選ばなかった時のENDであり、通常BADとなりそうなものですが、最も美しい大団円ルートです。ヒロインこそ選びませんが、だからゆえに平等に各ヒロインが昴に対して優しさを注ぐルートとなり、感動的なエピソードが随所に散りばめられています。このルートで鬼のごとく活躍を見せるのが、山頂で昴とともに温泉を掘っている八島のじいちゃん。御波のキリスト聖書の授業のくだりを受けて、昴にこの世の滅びなどありえないことを諭すシーンは見事でしたね。そして父親の竜と灯台で自己の存在を語るシーン、ここの会話もまた実に熱い。日向姉妹の父親である陽おじさんも共通パートでかなり熱いセリフを吐きますし、こういった大人が絡む泣きのシーンはずるいですねえ。


今だから言うのですが、僕はそれほど健速さんのテキスト好きじゃなかったんですよ。世界観作りと温かさが秀逸というのは共感できるんですが、ギャグのキレはありませんし、シナリオも、なんというかな……綺麗すぎて面白みに欠ける部分が確かにあって、世間的に評価を決定づけている「遥かに仰ぎ、麗しの」でも僕は丸谷さんサイドの話の方が好きですし、「こなたよりかなたまで」もシナリオは今ひとつだと思っていました。しかし本作、そんな彼の手がけた作品では間違いなく最高レベルのテキストであり、終末というテーマを置いたことで、彼の世界観とキャラの内面が圧倒的な輝きを放ちました。これまでの僕の評価を覆しましたね、嬉しい誤算です。


このTRUEと呼ぶべきノーマルルートも、終末までは描かれず、昴の決意と周囲の思いを浮き彫りにして優しさをもって物語は閉じます。

これから始まるのは俺たちの小さな世界に訪れた二週間ばかりの例外の物語、その言葉で始まる本作品、なるほどその通りでした。彼らが日常を見失ってから悩み行動し、その結果改めて変わらない日常を過ごすことを決意するまで、それだけの二週間が描かれている小さな小さな作品です。




いやー、ええ話やった

そう思い僕は余韻に浸るためにEXTRAのALBUMを開きました。あれ??コンプできていないじゃないか。そう思いおもむろにSTARTを押してみると、「After」なる文字が出ているではないですか!

それは世界の滅亡から30年後の話でした。荒涼とした地上で、わずかに生き残った人類が見つけたのは、終末のわずか前に島の皆で温泉を堀り当てた際の集合写真……。

視点を昴ではなく生き残った誰かである「俺」に移したのも上手かった。生き残りながらも世界の現状に絶望を抱えている彼が、死の縁まで笑顔で過ごした日常があったことに希望を見出す瞬間。

泣きましたね。ここは泣きました。思いは残る、そして世界は終わらない、八島のじいちゃんが諭し、昴が継承したその思いが30年の時を経て希望の活路を拓く素晴らしい閉じ方でした。



【グラフィック】
な、なんですか、この素晴らしい原画家さんは!! 

植田亮さんというのですね、本作ではじめて彼の絵に触れました。髪まわりの造形がどう見ても変というのはさておき、透明感のある絵と温かくて豊かな表情、瞳の力、キャラを生かす構図、ハンパではない魅力を放っています。一気に惚れ込んでしまいました。更にそれに呼応するかのような背景の美麗さ。そして背景にも植田さんが関わっているという驚き。うーむ、素晴らしい絵師さんや背景スタッフを立てているみたいですね、etudeは。絵色や艶が魅せる世界観づくりがすさまじいです。これは原画家買いするユーザーも多数いるのではないでしょうか。


てか、ひとつ言いたいんですけど、昴の母ちゃんのキャラデザかわいすぎないすか? 最初攻略できるのかと思っちまいましたよ。


【キャラクター】
主人公よりもヒロインたちよりもまずここを言及させて下さい、それは主人公たちの親です。父性、母性。この極限下においてこれほどまでに美しく頼りあるものとして描けているのは素晴らしいですね。昴の両親である竜と海、そして朝陽夕陽の父親である陽、まったく違うタイプの3人ではありますが、彼らの親としての行動の数々は本当にグッときますね。子を思う暖かい目線とセリフの数々、泣かせられましたよ僕は。

主人公は葦野昴、健速さんの描く主人公としては比較的男らしいキャラで好感が持てます。ヒロイン勢では、大人しいながらも表情がよくまわる御波が断トツにかわいいですね。でも個人的に一番好きなのは快活な努力っ子青葉。昴のために女の自分を抑えている様は切なくもいじらしいです。メイン格の日向姉妹は、昴を立てるためのヒロイン像としての側面が強かったかな。ここはちょいと惜しい。

しかし彼女たちと昴の信頼関係の描き方は本当に感情移入しましたね。僕の拙いレビューを見てくださっている方には僕の好みの傾向がわかるかもしれませんが、僕は主人公、ヒロイン以外の脇役をけっこう重要視します。特に男性キャラの活躍を求めたい傾向があり、メインキャラ群にはいい働きをする男性友人キャラがいてほしい、とよく思います。しかし本作、はじめてそういう思いを抱かなかった。男ひとり対ヒロイン群という構図がここまで綺麗にはまった世界構築というのは珍しいケースかと。


余談。青葉ですが、青髪のスポーツ少女が若干ヤンデレしてしまうところは「君が望む永遠」の水月を彷彿とさせませした。


【音楽】
また音楽が素晴らしいんです。ピアノ、ストリングス、管楽器を中心に置いた、きれいな旋律のBGMが多いですね。穏やかなシーンにも、刹那的なシーンにも実によく合っています。特に、「Happiness」これがいい。ピアノのみの旋律からシンセを入れたリピートに流れる展開が素晴らしい良曲。泣きシーンで使われる「はてなき想い」、OPをアレンジした「星空を見上げて」がまたいいですね。そしてなにげない会話の中に現れてくる「アメージング・グレース」、これ自体が決め所のBGMになるというのにもやられましたね。

OPは「For our days」、雲の切れ間に光が差すような、頭に残る名曲ですね。またEDは各キャラずつに用意されているという丁寧な仕事ぶり。綺麗な佳曲揃いといったところでしょうか。


以上あすせかでした。2007年を代表する作品ですね。終末ゲーではありますが、だからこその日常ゲー最高峰の称号を与えたいと思います。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【家族計画】
家族計画



メーカーD.O.
シナリオ■■■■■■■■■■ 10
グラフィック■■■■■■■□ 7.5
キャラクター■■■■■■■■■■ 10
音楽■■■■■■■■■ 9
繋がり■■■■■■■■■■ 10
総合【S】 94点

小さな幸せと大きな感動

どこのゴム製品のキャッチコピーかと誤認しそうなタイトルですが、内容は温かみに溢れたヒューマンドラマです。お互いが他人同士だからこそ浮き彫りになる人の絆、愛情、優しさ……、何を言っても所詮はエロゲではありますが、されども他人への優しさを学ぶには十分に足る内容を備えたゲームだと本気で思います。

【シナリオ】
シナリオのクレジットは山田一さんですが、これは鬼才・田中ロミオさんの別名であるのは有名な話ですね。個人的には彼の最高傑作だと思っています。

家族の温もりに恵まれず、必要以上に他人と交わることのないように生きてきた主人公、沢村司。ある晩、いつものように新宿歌舞伎町の中華料理屋でアルバイトをしていると、路地裏で行き倒れた少女に出会います。母親を探し中国から密航してきたという彼女の名は王春花。何者かに追われる彼女をかくまい共同生活を送ることになる司と春花ですが、そんな彼らの目の前に突然現れたのは、広田寛と名乗る債権者から逃げ回る自称・元敏腕企業戦士。やがて巻き込まれたトラブルにより、家を失った3人は、引き寄せられるように集まったドロップアウトの不幸者たちと行動を共にするようになります。そして7人にまで膨れ上がった彼らを前にし寛がした提案は……

相互扶助計画、「家族計画」――。

各々の価値観が違うことを容認し、「家族」を擬似的に形成することで共に補い合って生き抜こう、というもの。ある者は積極的に、またある者は仕方無しに、互いの利益のために計画を受け入れる面々。前途多難な彼らの家族計画に明るい未来は訪れるのでしょうか。


とまあこんな感じの導入ですが、先のことを想像するだけで名作の予感がしますね。この導入部で、末女となる茉莉が、司のことを「お兄さん」と呼び、身体を張って計画への参加を説得するシーンがあるのですが、すでにホロリときてしまいました。

さて、この家族計画、『高屋敷家』のメンバーは、ホームレス中学生(笑)に始まり、自殺志願の未亡人や、犯罪に手を染め続ける同級生、生活能力ゼロの絶縁された社長令嬢、そして上記した密航中国人、借金まみれのオッサンと、社会落伍者ばかりです。主人公が唯一、やや排他的ではあるものの真っ当に生活しているといって良い。当然この計画、最終的に破綻するのが目に見えているわけですが、そこに至らせるまでの日常の描き方や、主人公である司の心の変化が素晴らしく丁寧です。さすが、「加奈」での兄妹心理を巧みに描いた人だなあと思います。

僕はふたつ、あまりにも巧いなあと思ったシナリオ要素があります。

ひとつ、雰囲気作りの巧さ。日常シーンにおける、寛を筆頭とした笑いを担当するキャラクターたちの立ち居振る舞いが雰囲気をまったく暗いものにさせません。ダークな各々境遇とのその対比はよく際立っており、だからこそ各個別ルート前に必ず入る、寛の家族計画終了の宣言や茉莉の家出をはじめとする真面目なシーンが切ないくらいに生きてきます。もともと、各々が抱える事情はひどくディープなものですので、シリアスモードはかなり痛々しい展開を見せるのですが、序盤~中盤の家族計画がとても心地良く作用するため、その後半展開がより深みを増すんですよね。

もうひとつ、生まれてはじめて「家族」というものに触れ、本人も知らずのうちにその温もりに感化されていってしまう司の心情変化が非常に巧い。彼は、ひどく現実的で周囲に排他的ではありますが、それは環境がそうさせていただけで、彼の本質的な人間像は正義感がありお人好し、なんですね。物語の進行に併せていつのまにか人一倍に高屋敷家に思い入れを持ってしまう彼が、口では文句を言いながらも「家族」のために奔走し、また個別ルートでヒロインを大きく包みこむ姿勢は読み手を強く惹きつけます。この手のゲームの主人公の中ではトップクラスの魅力を放つ主人公だったと思います。

共通ルートでの、上記した家族計画終了の宣言シーンでの司なんて最高に切なく、そして熱いですよ。共通パート最大の山場にして名シーンだと思います。

個別ルートで一番優れていたと思ったのは青葉ルートでした。両親と絶縁した彼女の精神の拠り所は、「祖父と楽しく過ごした想い出」これ一点のみ。本作の舞台となる高屋敷家も祖父の遺産です。このルートは話の伏線が二度ひっくり返るところが本当に凄い。祖父との想い出の品を探し続ける青葉ですが、実は祖父にも避けられていた、という事実を司が発見してしまう展開、そして孫同様にただの表現ベタだった祖父が彼なりの愛し方を青葉に注いでいたことがわかる最後のドンデン返し、ライターの類まれなる力量を見せつけられるシナリオです。

そして一般的に最も「泣く」と言われているシナリオで、そのラストシーンが殿堂入りの準ルート。司との過去に伏線を持つ準、彼女のひとつひとつの行動や食事を摂れない背景など実に痛々しく、また、孤児院の存続という譲れない理由があるにせよ、薬物の横流し、使用、仲間の金の横領はあまりにもガチすぎる犯罪行為ですので、後味はそんなに良くないというのが正直なところでした。本編が中途半端に終わりエンドロールが始まったときは「え、これがあの高名な準ルート!?」と思ったものですが、エピローグに爆弾を抱えているとは恐れ入りました。「足長お姉さん」と「オムライス」のくだりは問答無用の泣きでしょう。

と、青葉、準ルートが2大人気シナリオなのかなぁとは思うのですが、個人的に一番好きなのは春花ルートです。この家族計画は、どのルートでも麻薬犯罪や暴力団抗争が裏で走っている気配が見えますが、そのバックグラウンドを説明する大きな伏線回収ルートが彼女のルートになります。

母親を探すために密航してきている春花。母親には会えるのですが、当の母親は春花に対する記憶を封印しています。その理由といったら、中国留学中に強姦され生まれてきたのが春花というあまりにも救われない内容。記憶を閉ざしてしまっている母親から、彼女は自分が望まれて生まれてきた子ではなかったことを悟るのですね。そして、現在の母親とその家族のために自分の感情を犠牲にする、そのあまりにも健気すぎる姿勢、もう涙が止まりまへんでした。あーゆー健気な悲劇はわたくし、弱いです。素性を隠したまま母親に手料理をふるまい、司のナイスアシストにより按摩をしてあげる場面なんてヤバすぎでしょう……。また、異父姉妹となる由利が理由のわからない涙を流すシーンも追い打ちでした。エピローグで最も温かい気分になるのも春花ルートですよね。ラストの一枚絵はクソやばいです。

そして数多のロリコン製造ルートと呼ばれる茉莉ルート。虐待の扱いを受けている親戚一家を飛び出してホームレスしている彼女ですので、年齢が多感な時期なこともあり、最も家族計画に思い入れを見せる茉莉です。その環境のため、うじうじと卑屈なことに加えあまりにも幸が薄く、是非とも幸せにしてあげたい彼女のルートですが、お兄さんとして、そして後半は恋人として彼女の将来を思い奔走する司がめちゃくちゃかっこよいです。最も下っ端である彼女を劣悪環境から救うために、皆が力を貸すために動くシーンも胸が熱くなりました。

最後にお母さん役である、真純ルート。お母さん役といっては可哀想な若さですが。依存度が高く男に騙されやすい三十路という、コメントを差し控えたくなるような設定の彼女。案の定、結婚詐欺師の元彼が最後まで話にからんできますね。正直全体の中ではシンプルなルートではありますが、それでも高屋敷家放火の際に自分の身を挺して司を助けようとする真純や、逆にその後ふたりの生活でみせる司の甲斐甲斐しさなどの無償の愛といいますか…綺麗なルートだったと思います。

以上シナリオ雑感ですね。陰りの中にある光明、作中は各々不幸な境遇ながらも、全ルートハッピーエンドに落としこまれるのはとても心地良いです。春花ルートは作中背景が全て描かれると共に最も美しく感動的に締まるので、是非ぜひ最後にプレイしてください。


【グラフィック】
システムまわりは、まあ昔のゲームですのでしょうがないといっちゃしょうがないですが、同時期に「君が望む永遠」なんかがあることを考えると、ちょっとシンプルさは否めませんかね。

原画担当は福永ユミさん。特徴のある少女漫画的な画風の方ですね。なんとなくバランスが安定しないこともあり正直あまり好みではないのですが、このレビューを書くにあたって彼女のウェブサイトをのぞいてみたら、画風がだいぶ変わっていて(とても良い方向にです)少し驚きました。めっちゃうまくなってるですやん。

【キャラクター】
基本的には変な人ばっかりです笑。一番まともな思考をしているのは主人公の沢村司でしょう。上記したとおり本当は人間味があり熱い男である彼、田中ロミオさんの描く物語の主人公は概ねかっこいいですが、その中でも随一にかっこいいキャラだと思います。

奇人キャラを担当する父親の高屋敷寛、そして司のバイト先の店長代理にして多国籍マフィアのリーダー劉さん、このふたりがとてもいいです。ギャグ面を一手に引き受けるくせに、時にシリアスシーンでも要となる彼らの存在感といったら。「クロスチャンネル」の桜庭といい、「ユメミルクスリ」のエロゲイといい、田中ロミオさんはこの手のキャラを描くのがとてもうまい。中盤から後半にかけての寛、そして春花ルートでの劉さんは必見です。

ヒロインたちもしっかりキャラが立っています。悪い意味でなく、とてもクセのある面々ですね。むしろサブキャラの、準の双子の妹である景、劉さんの妹の楓なんかのほうが、クセのないよく出来たいい娘たちです。現実に付き合うならこの子たちのほうが良いでしょう笑。

ちなみに本作、当初はボイス無しだったのですが、後に限定で再販された『絆箱』には各声優によりボイスが当てられています。そして僕がプレイしたのは、絆箱。声優陣は他に無いだろうってくらいに全員はまっています。そして寛役の若本規夫さんの怪演があまりにも光ります。

【音楽】
OP、 EDともに超良曲。特にOPは、イントロ、サビともにとても耳に残り、いまだにベスト曲と豪語する人も少なくありません。I'veさんいい仕事してます。 BGMはごくごく普通で古めかしい感じ。まあ年季のある古い純和風邸宅である高屋敷家にマッチしていたといやそうですかね。


以上、家族計画です。現実のビターさを持って描かれる他人同士の絆。田中ロミオさんの真骨頂です。古い作品ですが、是非是非プレイしてください!



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【キラ☆キラ】
キラ☆キラ



メーカーOVER DRIVE
シナリオ■■■■■■■■■■ 10
グラフィック■■■■■■■■■ 9
キャラクター■■■■■■■■■□ 9.5
音楽■■■■■■■■■ 9
青春の痛み■■■■■■■■■■ 10
総合【S】 94点

Never Mind the Bollocks

いやー、本当にファッキングレイトな作品でした。

名作名作言われていますが、本当に名作だと思います。青春物語の範疇を越えた深みのある展開が、登場人物たちの心の機微が、僕自身のバンド経験や青春時代と重なり合う部分も多く、ただのゲームという枠を越えて強く響いてくるものがありました。

【シナリオ】
シナリオ担当は瀬戸口廉也さん、彼はバンド経験でもあったのでしょうか。細かいバンド描写が地味にリアルです。ライブ時の控え室の状況や、出演順の妙、ステージ上の演奏者独特の感覚、ライブハウス事情、バンドマンたちの台詞などなど。さらにメイン、サブ含めて登場人物たちの心情がリアルで迫るものがあります。前作「SWAN SONG」にて、極限下の人間における内面をうまくえぐってきた彼ですが、本作も原画のタッチと前半のポップなノリに反して、青春時代の少年少女の不安定さを強くえぐってきた印象があります。

あらすじ。好調だったテニス部を辞め彼女にもふられ日々を漫然と過ごしていた主人公前島鹿之助は、幼馴染の石動千絵が部長を務める第二文芸部に誘われるままに入部します。そこには千絵の他に、バイト先の同僚で天真爛漫な勤労少女椎野きらりや、大財閥の薄弱令嬢樫原紗理奈らが部員として所属しています。ある日、ひょんなことから同級生殿谷健太の組んでいる人気インディーズバンド「STAR GENERATION」のライブを見に行くことになる鹿之助ときらり。そのライブに感動したきらりは、高校生活最後の文化祭、さらに今年度をもって廃部の決定している第二文芸部でロックバンドを組みたい旨を部員に語ります。ガールズバンドということでウケ狙いも込めて女装を余儀なくされる鹿之助と、3人の少女たち。楽器など触ったことのない彼らですが、殿谷の特訓を受け練習を重ねることで本番に思いを託します――。



青春ですね。

その後彼らはミッション系学園にあるまじきパンクスピリッツ溢れる文化祭ライブの大成功、STAR GENERATIONとの対バンを経てクチコミでの話題が広まり、つてを頼っての東名阪ツアーに出ることになります。攻略ヒロインはバンドメンバーの3人、きらり、千絵、紗理奈。人数こそ少ないですが、ひとりひとりに当てられる物語量は多く、かなり突っ込んだ内容になっていきますのでむしろ良かったんじゃないかなと思います。大阪でのライブの後、ヒロインにより向かう土地が変わるイベントが展開され、ツアー後、ヒロインひとりひとりの家庭事情をテーマにしたシナリオが描かれENDに収束、といった流れですね。東名阪ツアーまでは非常に痛快な青春バンドストーリーです。


ですが、本作ただの高校生バンドのサクセスストーリーではないところを強く評価したいです。青臭いバンドストーリーを描く作品であるように見せ、そして実際ロック活動を中心に添えた作品ではあるのですが、あくまで彼らのバンド経験は夏の花火のように刹那的なイベントとして描かれ、その後に続くはずの将来への不安や自身への葛藤、そして各ヒロインが抱える家庭事情ですね、ここに主眼が置かれるのが重要事項です。ツアー終盤から東京凱旋後は、ポップなバンドストーリーものの体から各々の現実と向き合う展開にシフトしていきます。どのヒロインも後半個別ルートのダウナー具合が凄まじく、まるで別ゲームのように雰囲気ががらりと変わります。そういった意味では後半から瀬戸口節が発揮されると考えて良いでしょう。


まず、進学校の高校三年生を対象に選んで設定したこと。高校三年生というのは非常に微妙なラインです。僕も高校から浪人をしてまで大学進学をした身ですが、本作の登場人物も千絵姉や紗理奈、鹿之助など受験が前提にあるキャラたちばかりです。高校から次のステージに行くこの一年間という期間……、受験にしても就職にしてもここの分岐点における自身の人生への影響はあまりにも大きい。大学に行かなければ出来ないこと、なれない職業は山ほどあります。就職をすることで得られる技術や保証される生活というものもあるでしょう。

まずこの1年間、そして僕のように大学進学した人間ですとその3年後あたりもかな、ある種の夢や目標と現実との狭間に翻弄される時期でもあります。もちろんやりたいこと成し遂げたいことは何歳になっても追えるものでしょう。ですが現実的に、色々なものを投げ打ち自分の人生を曲げてまでやれるものかというと、それはまた難しい。日本社会において、新卒重視の雇用形態など早期の判断を求められるのは現状事実ですし、そして一度選択した道から元の分岐点に戻ることが非常に難しいのも、これまた事実です。ほんのこの期間に決めたひとつふたつの選択がある程度の人生の指針となる可能性は非常に高く、時が経てば経つほどに選択肢の幅は狭まります。例外こそあれどそれはあくまで例外レベル、現在の日本の社会システムにおいてそういった多様な選択肢が「一般」と呼べるようになるにはだいぶ程遠い状態です。

良くも悪くも、日本で暮らしている以上、これは避けられない命題でもあります。そこは大人の言葉でいえば「現実」とでも呼ぶのでしょうか。この物語はあくまでゲームでありフィクションですが、高校生バンドというテーマとキャラデザインのポップさの割に、こういったリアリティをこれでもかというほど絡ませます。強く評価したいところです。


とはいえやはり、初心者が数カ月で地方ロックフェスに出演してしまうくらい破格に浮いた設定である彼らに対し、各地で出会うミュージシャンの卵たちに、その現実や夢の行方などを語らせる部分が巧みでした。たとえば名古屋では、バイトとその日暮らしをしながらミュージシャンを目指す屋代が、自分のさまざまなものを投げ打って今の生活を続けている告白が続きます。ここで鹿之介が「彼が捨てたものの中には取り返しのつかないものも含まれているに違いない」と想像しますが、まさにそういった現実が重くのしかかってくるのが本作の特徴です。

また、きらりルートにて福岡で野外フェスに参加する際、他の出演者が、音楽を続けて生きてゆきたい夢と実際の現実とのギャップをステージ上で高らかに叫ぶシーンがあります。「こんな楽しいことがずっと続けばいいのに」「バンド活動はいつも楽しくていつも虚しい」「無理なのはわかっているが、とりあえず信じてやってみることにしている」こういった彼らの叫びが、大人の僕たちには凄く響く。

わたくしごとですが、僕も高校、大学時代とロックバンドを組んでいて、しかも彼女たちのように破格の成功を収める形で高校時代を駆け抜け、その後の壁、そして解散という経験を通っていますので、バンドをやることの楽しさや興奮、そしてその裏にある葛藤や厳しさも理解しているつもりです。ですので、本作いちPCゲームであるというに、色々と主観的な厳しい目線で見てしまったのは確かです。

しかし、だからゆえに、上記したような彼らに降りかかる現実、夢との折り合いをしっかり描いた本作を評価したくなるのです。


さて各ヒロインルートについても言及しておきましょう。いずれもヘビーな家庭環境をお持ちです。

まずはドラマー、石動千絵ルート。大阪ライブ後、彼女の個別イベントは、兵庫、岡山へと続きます。兵庫で出会う伝説のギタリストとのくだりは鹿之助との距離を一気に縮める必須イベントでしたが、岡山の家出少女絡みのイベントは蛇足感が満載でした。

千絵ルートは、父親の浮気による家庭不和、がルートの礎となっています。年上の幼馴染ということもあり、前半は皆のお姉さんたる様相を見せる彼女ですが、個別ルート後の弱々しさと我慢強さは、声優さんの演技が光っていたこともあり、かなりの感情移入をもたらします。鬱々としつつもじわじわと暖かくなる展開をみせるルートでした。千絵を支え、幼馴染から恋人に関係を変化させていく過程も非常に丁寧に丁寧に紡がれており好感が持てます。また、最後を決してハッピーエンドにしないのが瀬戸口風味、父親との確執は乗り越えないだろうなと感じさせたまま終わりを迎えるのも良かった。

千絵も鹿之助も根っからのリアリストです。バンドはあくまで一過性のイベントごとでその後は進学と就職を、といった考えをふたりとも持っていますので、一気にサクセスストーリーから離れることになります。しかしながら、ラスト付近の卒業式をライブジャックするイベントや、物語のラストシーンなどを読んでいると、本作でもっとも爽やかでバンドものらしい終わり方をするルートですね。読後感は作中随一の爽快さです。


続いてギター、樫原紗理奈ルート。熊本の海岸告白シーンは最強のニヤニヤですね。青春っていいなあ。紗理奈の叔父の協力により、日本最南端沖縄まで歩みを進めるルートです。本州脱出をはかる唯一のルートで、沖縄での住み込みをしつつのバイト生活、米軍キャンプでのライブイベントなど、旅と青春具合が一番出ていたかと思います。

夏休み後は、破天荒な東名阪ツアーに怒り心頭の祖父が、虚弱体質を理由に彼女を長野の本邸に連れ戻してしまいます。それをなんとか連れだそうと画策する鹿之助、という見た目的にはよくあるお嬢様ヒロインルートの体ですね。しかしながら、努力で主人公もヒロインにふさわしい立場になっていく、というのが呼応する王道パターンですが、決してそこまでは描きません。不幸を遂げてしまった紗理奈の両親と祖父との確執を受け止めた上で、叔父や家政婦の協力を得て説得に望む展開までは良かったですが、実は鹿之助自体がそういう大きな理想を体現していくようなキャラではありませんし、そこで大きな展開を見せてしまったら、やはり違和感が残ります。意地悪な言い方をすれば、「で、結局解決すんの?」といったラストですが、その先を残す締め方は個人的には嫌いではありません。


そして満を持しての椎野きらりルート。彼女は第二文芸部バンドの顔であり、天才ボーカリストとしての側面を持ちます。よって個別イベントではツアーの集大成として、福岡にてインディーズ野外ロックフェスへの出演を果たします。このステージでの文章描写は非常にリアルで鳥肌が立ちました。大好きなシーンです。

夏休み後、きらりは父親の借金から進学を諦め水商売を余儀なくされるのですが、その泥沼に身を投じる直前でテキスト分岐、どちらも後味の悪い回避の仕方をします。片方は、自身の死亡、もう片方は原因である父親の死亡、です。

そしてこのきらり死亡ENDが思いのほか良ルートでした。正直一番心に残るルートだったように思えます。通常は、ヒロインがあのタイミングで死んでしまった場合そこでBAD END直行ですが、本作はきらりの死後5年後の彼らにチャプターまるまるひとつ当てられるほどのボリュームが残っています。そしてここの描写が非常に切なかった。きらびやかだった高校時代の第二文芸部バンドとは実に対照的で、バイトとライブ三昧の貧乏生活を続けながら漫然とバンドを続けているというその対比、また高校時代に各地で出会ったなかなか目の出ないバンドたちと同じ側に身を置いているリアルさが非常に巧みでした。当然千絵姉やカッシー、妹なども一般社会人としての生活に入っており、その彼女たちとの対比も丁寧に描かれていました。鹿之助はずっと「普通の人並みの生活」を望んでいた少年ですので、きらりを失い、そのままバンドを続けている彼のこの生活はとても痛々しく、切ないものがあります。最後、バンドをやめて社会人生活に進むかと思いましたが、ラスト、きらりへの未練を断ち切り、心新たにバンド活動を始めるくだりも胸を締め付けるものがありました。また、村上や、大阪で出会った少女と共にバンドをやっている展開もいいじゃないですか。

一方、もう片方の正規ENDも、きらりの父親は結局鬱の呪縛から解き放たれることなく自殺をしてしまいます。頑張っていればいつか家族が幸せに暮らせることを望んだ完全無欠のハッピーは彼女には与えられないんですね。とてもビターです。鹿之助が、きらりの父親を見殺しにしてしまったという事実をきらりに向けて懺悔するシーン、それを受け止め、歌で日本中の人々を救う決意をするきらり、この展開は文句ナシです。スワンソングにどこか共通する、「心の闇」から「救い」へと転じようとする展開は瀬戸口さんのひとつのテーマなんでしょうね。

本ルートは唯一、第二文芸部バンドからプロミュージシャンが出るルートですね。このルートのみでしかも一名だけ、現実路線をひた走る「キラ☆キラ」です。しかし、他ヒロインルートだと、きらりは水商売に手を染めていってしまうということでしょうか…。。orz


長くなりました。
いまどき珍しいノベル形式のゲームですが、ここまでの高い評価を与えたくなるのは純粋に文章から訴えかけてくる力があるからですね。

ロックンロール!!


【グラフィック】
原画は片倉真二さん、GROOVER時代からの絵師さんですね。一見してで彼の絵だとわかる、丸みがありポップな特徴ある絵柄です。勢いのある前半部はよく合っていますが、鬱々とした後半部は逆に痛々しいですね。個人的には好きな類の絵師さんですが。

そして背景の多さには驚嘆。他のメーカーさん、これは見習って欲しいですよ。3ヒロインルート合計して10ヵ所にもまたがる日本各地の土地風景は勿論使い回しをせず各々の土地を描いていますし、1シーンにしか使われないような背景も多数あり、そのこだわりようは賞賛に値します。


【キャラクター】
上記しましたが、人間模様を描かせたら一級品ですので、それ即ちキャラクターの造形がうまいということですね。特に3ヒロインと主人公のバランス感はうまいもので、前述の通り会話ウインドウが下に開く最近のエロゲ形式ではなく、画面全体を文章が覆う地の文の多いノベル形式だというのに、日常シーンのバンドメンバーの会話テンポの良さは非常に心地よいものがありました。

主人公は、ちょっと大人すぎたかな。あそこまで色々なものを首尾よく諦められる高校生というのも少し抵抗ありますが、それも母親の連れ子という彼の出自設定で補完してうまく逃げたなといった感じ。前半はそうでもないのですが、後半は年不相応の生き方を学んでしまった少し歪んだ少年として描かれます。

また、主人公の親友である村上の存在も大きかったですね。見た目はギャグキャラで、ギャグシーンの要であるのも確かですが、真剣なシーン、感動のシーンにも絡んでくる彼はとてもいい働きをしていました。


声優陣の仕事ぶりはいずれも見事なもので、どの声も非常にキャラによく合っています。配役が発表されていないのですが、特に千絵姉の声優さんはかなりのハマリ役であるとともに、弱々しい状態の彼女の心の機微を非常にうまく表せていたように思えました。


【音楽】
バンドものであることを考慮しても、ボーカル曲10曲は見事です。ただ、クラッシュやピストルズといった70年代英国発祥のパンクムーブメントをテーマにしたり、チャックベリーなどのR&R創始者に言及してる割には、楽曲が鬼のJ-POPなのはまぁご愛嬌でしょう。弱々しい独白を精一杯叫んでツービートに持っていけばOK的な、10年位前のインディーズシーンで盛り上がった、いわゆる「青春パンク」的楽曲ばかりだったのが個人的には苦笑いしてしまう部分でした。ま、でもそこはしょうがないかな、美少女ゲームだし。そこに口を出すのは野暮ってなものでしょう。ボーカル曲の圧倒的な多さ、生楽器を利用した楽曲群、歌を効果的にシナリオ展開に盛り込んだ演出…と、本作に音楽要素が非常に貢献していたのは確かです。


以上、キラ☆キラでした。
本作、18禁ゲームですが、正直なところ18歳以下にやってもらいたいです。瀬戸口さんら大人がかつて思い描き、そしてぶちあたった大人の世界、現実の世界への壁、しかしながら確実に存在する可能性を秘めた青春を描く傑作です。

関連レビュー: キラ☆キラ カーテンコール



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

【SWAN SONG】
SWAN SONG



メーカーLe. Chocolat
シナリオ■■■■■■■■■■ 10
グラフィック■■■■■■■■■□ 9.5
キャラクター■■■■■■■■■ 9
音楽■■■■■■■■ 8
悲劇■■■■■■■■■■ 10
総合【S】 92点

崖っぷち群像劇

現在は販売停止のようですし、もともとの生産本数もかなり絞られていたみたいで、まさに隠れた名作といった趣きです。ただしこれは良くも悪くも「エロゲー」という括りの作品ではありませんね。萌え要素や肩の力の抜ける独特のウケなどもなく、世界観ゆえの暴力的な性描写やリアルな死を惜しげもなく出すための18禁作品として捉えた方が良いでしょう。

【シナリオ】
クリスマスイブの雪の夜、山深い地方都市を襲ったマグニチュード9.5の大地震。街は壊滅し、都市機能がほぼ全て停止する中、とある教会で出会った同世代の6人の男女たち。性格も出自もまるで違う彼らですが、力をあわせて生存への道を模索します。やがて彼らは他のより多くの生存者と出会うために、行く手の先にある水没区域を筏で渡る決意をします。その先にて出会うものは、極限の集団行動においてあらわになる人間の本能や欲望、彼らひとりひとりはどのような運命を辿ることになるのでしょうか。

と、いった感じで、まったくタイプの違う登場人物たちを中心に添え、未曾有の大災害という極限状況下における個々の行動を非常に繊細に書き込んでいます。キャラ視点が次々と入れ換わることで多角的に場面を捉えることが出来る点は巧妙ですね。シナリオライターは瀬戸口廉也さん、正直美少女ゲーム向きのライターでは全くありませんが、彼のような存在がこの業界にいてくれたことは面白い限りです。読ませる洗練されたシナリオで、そのテーマ性から、いずれのレビューサイトでも「嫌いだ」「欝になる」といった記載はあれど、「つまらない」といった類のものは見当たらず、「凄いシナリオだ」という認識はほぼ共通しているようですね。

上記、水没した区域の先にある避難所と化した学校が主な舞台となります。一方で同区域に存在する宗教団体「大智の会」との競り合いが大きなターニングポイントとなっていくのですが、うまいのはこの二団体の争いはあくまで舞台装置であって、学校側=味方、宗教団体側=敵、といった一元的な単純構成にしなかったことですね。主人公グループや、学校サイドの人間たち、大智の会当主の少女などのそれぞれの立場や思惑を立体的に絡ませて、「いったい誰の正義が正しいのか」というテーマを際立たせるシナリオの重厚さは見事の一言。何よりもラスボスは学校サイドにいますのでね。

人間模様が秀逸な作品ですので、キャラクター面からシナリオを掘り下げてみましょう。反転してはいますが、ネタバレすれすれ気味です。

本作には、冒頭に教会で出会う3人の主要男性キャラが登場するのですが、120度ずつ違う方向を向いているようなタイプの人間たちです。その全く違うそれぞれがこの極限下でどのような行動に出るのか、それが本作の肝となります。

主人公の尼子司はストーリーテラー役、主人公としては感情移入したくなるタイプでは実はありません。あまり行動的にならず、冷静に物事を見つめています。ただそこに彼なりの生き方というか信条みたいなものは確かに一本あり、自身がかつて経験した絶望と現在の逆境にも目を逸らすことなく見据える強さを持っていますし、自ら望んですこし外れた位置に身を置いている様相です。主人公ですので彼視点になることが当然最も多く、客観的に物語を読むことが出来る役割としては確かにうまく機能していたように思えます。

続いて田能村慎。彼はヒーロー役ですね。彼はこの極限世界においての理想を体現するキャラクターで、少年誌なんかの場合ですと彼が主人公になったほうがよっぽどしっくりきます。ただ、彼を主人公にしないあたりがうまいところですね。こういう強い信念とそれを成すだけの力を持っているキャラを主役にしてしまうと、どうしてもハッピーエンドありきの真っ直ぐな話になってしまうんですね。それだとこの泥臭い世界観を表現することは厳しいんです。彼はヒーローですので、彼がどう出るかによって皆の運命が変わるほどの影響力を持ちます。しかし、彼はヒーローではありますが完璧ではなく、本作でもいくつかの判断ミスをおかし、結果としてそれが鍬形の暴走や彼の死を招いてしまいました。彼のいくつかの判断ミスのひとつを修正する選択肢がHAPPY ENDにつながることも、彼の存在感をよく表しています。

そして最後にアンチヒーロー役を負う鍬形拓馬。語弊があるかもしれませんが、本作は彼の成長物語でもあります……宜しくない吸収をしていますが。彼は、最終的な位置づけとしては「ラスボス」ということになりますが、ただただ女々しかった序盤から、他2名の主役男性陣に憧れ、悩み、行動し、戦い、そして恐怖を穿った悪い方向で克服してしまう、ある意味で最も人間臭いキャラだったといえます。司は世界を斜めに捉え達観しているところがありますし、タノさんはそのゆるぎない理性をもって逆境に屈しない人間でした。いってしまえば彼らはフィクションなキャラクターですので、僕らに一番近しい人間が鍬形なのではないでしょうか。まあ流石に自分はああはならないと僕は信じていますが……わかりませんね、こんな状況ですから。ま、そういった意味では、終盤彼はかなり悪のカリスマを発揮し凶行も凄まじいものになっていきますが、それでも憎み切れないのは、前半部分での彼の弱さや葛藤の書き込みが非常に丁寧に掘り下げられていたからでしょうね。


そして中心となる女性キャラクターが2人います。佐々木柚香川瀬雲雀、彼女たちの描かれ方も対照的ですね。
清廉とした雰囲気で優しさと慈愛に満ちた正ヒロインの様相を漂わせ、実際そういった描かれ方をする柚香なのですが、彼女はちょっとしたトリックキャラクターでしたね。実は無気力で他者に依存しないという、女の子に理想を重ねるこの手のゲームとしては黒いものを持っているヒロインですね。彼女は結局誰ともわかりあえず、違いますね、わかりあおうとせずに空虚な存在なまま物語の収束を迎える、非常に寂しいヒロインであったといえます。ただ、どちらのENDでも生き残る唯一のキャラであると共に、無気力な自分の独白がラストで入ることや、両ENDでの最後の様子を見ていると、もしかしたらアフターの世界では成長を望む彼女が見られるかもしれません。

性格的に真っ直で素直、「いわゆる」メインヒロイン的なのはむしろ雲雀ですね。彼女は自分の直感に正直であるがゆえに、最後は自分が信じられるたった一人を選びます。また、口の悪さに反して、あろえや子供の面倒を率先してみる母性も併せ持ち、柚香よりよっぽどヒロイン的な、ドラマ的な行動をとる子です。しかしあくまで彼女はメインのヒロインではないところが、男性キャラにおける司とタノさんの関係に非常に似ています。上記しましたがタノさんを主役にしなかったように、雲雀をメインヒロインにしなかった同じような設定は正解だったと思います。


さらに、主役クラス6人以外では、本作のキーパーソンともいうべきキャラがふたり。ひとりは小池希美、暴徒に強姦されていたところを鍬形によって救い出される少女です。鍬形を慕うことになる彼女が、鍬形への自信や使命感に大きく貢献し、鍬形豹変のトリガー役になります。しかしながら彼をうまいことハンドリングするわけでもなく、彼女もごくごく「ふつう」の女の子です。その弱さや思春期ゆえの脆さが独占的な黒い思いとなり、破滅への道を誘うことになりますね。登場シーンから可哀想ですし、狂気めいた日常が生んだ悲劇のキャラの一人といえます。

また、舞台近辺に根城を構える新興宗教の象徴、竜華樹様の化身として崇められている乃木妙子。対立勢力の若き旗振り役として、彼女の葛藤や行動などもなかなかに切り込んで描かれます。結局というか当然というか、彼女は神の生まれ変わりでも何でもない普通の少女、周囲の人間の依存度が高まるこんな状況下だからこその、そこを突きまくる心の痛む描写が多いです。ちなみに彼女は司の妹なのですが、この設定は蛇足。唐突ですし、物語への必然としての楔になっていたかというと、決してそんなこともありませんでした。


他、避難所にて、自衛隊員のお兄さんや、初老の医師なども出てきますね。彼らは、避難所にいる人たちにおける理性の堤防役として機能しているわけですが、彼らの物語からの退場が破滅への引き金になるという構成はとても妥当。彼らの退場という事件こそ鍬形の真価を見せつける絶好の機会だったのですから、ここを使わない手はありません。



途中の選択次第でBAD直行もありますが、基本的には一本道です。どのヒロインと結ばれるとかって流れもとっていません。EDはふたつ。ほぼ全員死んでしまい教会の崩れた女神像をあろえが再建している非常に刹那的なEND、それじゃ救われないだろうってなことでほぼ全員生き残り復興への希望を残すEND。前者がNORMAL END、後者がHAPPY ENDだと言われていますね。確かに後者は前者の「ifルート」って雰囲気が強いです。


まーしかしこの手の破滅型の作品は重いながらも考えさせられますね。
望月峯太郎さんの漫画「ドラゴンヘッド」でも思ったのですが、何をもってして「正義」「普通」なのだろうかということですね。大味な話になってしまい恐縮ですが、僕らの日常で殺人は決定的タブーですが、時代と状況さえ変われば、人を殺して英雄にさえなれるわけじゃないですか。本作も、この極限の中で普通であるはずの常識が完全に崩壊しています。僕らは平和な価値観が守られた自室のPCの前で本作をプレイしているので、鍬形一派が狂気的に見えるのですが、実は彼らが行っていることは、行為こそ残虐ですが戦略としては正しいのかもしれませんし、そういった意味では、常にブレないタノさんや司の方が普通ではないのかもしれません……ま、幸せなことに僕はここまでの極限に身を置いたことがありませんので、実際どんな自分になってしまうかはわからないんですけどね。


最後に、中心メンバーのジョーカー的立ち位置にいる、八坂あろえという少女のことに触れたいと思います。彼女は自閉症スペクトラムという病を持った障害者の少女として主人公群に登場しますが、実は最初から最後まで物語の端っこで目立たず存在し続けています。彼女のような無垢なキャラクターを巧妙に機能させられるシーンはいくつもあったのだと思うのですが、そういったシーンで彼女はほとんど登場してきません。正直僕は彼女の存在が本作に必要だったのかがよくわからないんですよね。極限の人間模様を描くにはあまりにも浮いている人物設定ですし、また、他5人で十分すぎるほどに「人間」を描くことは完結していますから。

ただ、タイトルが「Swan Song」であり、白鳥に対して無垢で真っ白なイメージを抱く僕らからすると、「白鳥の歌=あろえの紡ぐ行動」というのがタイトルを象徴していると考えて良いと思います。そういった意味では最後のシーンの崩れた女神像の再建こそが「Swan Song」であると思うのですが、これはあろえの最初で最後の意志表示だったんだろうなあ。自分の意志を以って、神を、世界を創り直したいと願ったのではないでしょうか。このスワンソングが、彼女の行動から希望を見出しそして死にゆくであろう司への鎮魂歌と、それでも希望を見いだせない柚香への応援歌となることを願いつつ。



【グラフィック】
非常に洗練されています。グラフィックの綺麗さはさることながら、場面や状況に合わせた文章表示のカットイン、視点の切り替えなど、作品の緊迫感、臨場感をいかに出すかのアイデアとそれを実現する努力がなされています。また、とても見にくいのですがメニュー画面の崩れた文字表現などもよく雰囲気が出ていますね。

そして原画担当は川原誠さん、作風に合ったすこし大人びた画風ですね。一枚絵の構図の絶妙さ、丁寧さもそうですが、カットイン画面でのキャラの表情なんかも非常にうまく、作品の迫力に申し分なく貢献しています。


【キャラクター】
キャラクター像はシナリオと非常に緻密に相まっていましたのでシナリオ部分でほとんど書いてしまいました。以下もっとライトな雑感的なところではありますが。

やっぱりタノさんと雲雀がかっこよすぎたため、主人公司とメインヒロイン柚香がキャラ的に薄かったのが残念だったかなー。凄く基本的なことに思えるのですが、主役を主役たらしめるのって難しいんですよね、ホント。どうしてもおいしいところを攫う脇役ってのは目立つんですよね。

好きだったキャラは、やっぱ田能村慎。こんなに強いケーキ屋さんは初めて見ました。タノさんは、人としてこうありたいものです。ただ、エロゲ史上稀に見るほどに死亡フラグ立ちまくりの彼がいつやられてしまうのか気が気ではありませんでした。ゆえにNORMAL ENDで鍬形一派に殺されるシーンは「やめてーーー!」と叫びだしたい気分でした。最後まで生き残るHAPPY ENDは胸を撫で下ろしましたね。えがった。


【音楽】
歌付の曲がないので、あまり印象に残っているわけではないのですが、BGMは総じてレベルが高いです。オーケストラ調のOPも仰々しすぎて、本作プレイ意欲をかきたてます。ピンチの場面で流れる急かすようなBGMや派手なBGMなど、映画的なBGMが非常に多いのが特徴です。ただ、基本的には退廃感を出すために、無音+吹雪エフェクトを効果的に用いていますね。作品世界観を大きく押し出す音楽群であることは間違いありません。


以上、SWAN SONG でした。
エロゲーとしてではなく、ひとつの作品として楽しんでください。かなり暴力的な描写も多いですので、萌えや癒しを抱いている人はプレイはなさらぬよう。そういった意味では、「エロゲー」としての評価のしにくい作品ですかね。



テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

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