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【殻ノ少女】
殻ノ少女



メーカーInnocent Grey
シナリオ■■■■■■■■ 8
グラフィック■■■■■■■■■□ 9.5
キャラクター■■■■■■■■ 8
音楽■■■■■■■■□ 8.5
惨劇■■■■■■■■■ 9
総合【A】 84点

救われない美学

前作「カルタグラ」で見せた、戦後を舞台としたサスペンスエンターテイメント。その、18禁ゲームでありながら全くユーザーに媚びない世界観と重厚怜悧なシナリオは個人的に大当たりで、InnocentGreyという会社は、今後が楽しみな会社のひとつとなりました。そして本作、同様の世界観を貫いたのは嬉しい限りです。

【シナリオ】
舞台は前作「カルタグラ」と同じ戦後間もない東京。前作は上野が舞台でしたが、今回は新宿・吉祥寺間の中央線沿線が舞台となります。自分が現在同エリアに住んでいることもあって、より思い入れを込めながら読んでいた気がしますね。

時は昭和三十一年、戦後の動乱期。世間では身体の一部と子宮を切り取られた少女が遺棄される猟奇殺人が横行。私立探偵の時坂玲人は、かつての同僚である警視庁捜査課の魚住から事件捜査の協力を依頼され、また同時期に、妹紫が通う私立櫻羽女学院から、行方不明の少女の捜索依頼も舞い込みます。不可解な要素を含みながらも増加する犠牲者と交差する2つの依頼された事件、そして6年前玲人自身に降りかかった凄惨な事件、「自分を探して欲しい」と玲人に依頼する少女、様々な事柄がひとつに収束してやがて壮絶な事件が形を結び出します。

……しかしこのメーカーさんは、四肢切断とか子宮切除とか好きですね……。長編サスペンスでありながら、まったくダレずに最後まで読ませる展開は相変わらず見事です。エロゲにしておくにはもったいないくらいの凛とした世界観と原画、BGMは高いレベルで昇華されていますし、殺人という動的場面が次々に差し込まれるため、好きな人は一気に没頭すると思います。

感情移入を促す伸びやかなシナリオでありながら、登場人物が次々と不幸な目にあっていってしまうのは、うまくもあり、つらくもあり、サスペンスとしてやれるだけのことはやってやろうという気概を感じます。世界を唯一明るく構築する綴子が惨殺されてしまうのも「やめたげてよぉ」でしたし、何よりもユーザーサービスと見せかけた前作主人公の秋五や和菜ですら展開によって惨劇の対象になってしまうあたり、いつ誰がやられてもおかしくない緊張感にはらはらさせられました。

導入から中盤にかけて猟奇殺人事件を追いかけ、その犯人が暴かれ事件が収束したと見せかけて主人公やメインどころのキャラに焦点が当たる事件へと展開していく流れは、前作カルタグラと同一のものですね。序盤は犯人探しのミステリーながら、主人公が探偵役から当事者へと役割が変質していってしまうのも同じです。この流れは単体としてみれば非常に長編物語然りとして個人的に好きですが、比べると前作の方がより鮮やかだったこともあり、前作と同じパターンにしなくても良かったのかも、とも思いましたかね。

それから各所で言われていることですが、ミステリーの傑作、京極夏彦「魍魎の匣」の密室トリックをオマージュした展開はやはりあざとかったですね。オマージュといいますか、そのままですので。ただそれを差し引いても物語としては非常によく構成されており、テキストもキャラクターも自然に動き出すような雰囲気を保ちますので、そのカラクリ部分が惜しい所ではありましたかね。終盤の盛り上がりも、もうひと山欲しかったというのが正直なところで、葛城シンや朱崎先生といった実質犯や、西藤医師が黒幕というのは、予想の線上すぎて前作の動きの激しかった展開に比べると少々華が欠けると感じました。それから、これも前作に比べて、主人公が巻き込まれた過去の事件の必然性が少し弱かった気がしますかね。現在の事件と似ている性質を持ち、かつ主人公のトラウマとなっている事件ですので、終盤においての切り込み方はもっともっと深くて良かったですし、主人公の心をガンガンに揺さぶってもらって良かった。

ですが、母性を求めて殻の少女を作ることに妄執する間宮心爾、そしていみじくも殻の少女になることを余儀なくされてしまった冬子の存在感。姿が変容してなお心爾に救いを与えることのできる彼女の神聖性、ここの描き方は本当に感心してしまうくらいに巧みなものがありました。そして、すべての登場人物が物語に絡みだして意外な点が線でつながっていく後半の構図の作り方は前作を凌駕しています。玲人が運命に翻弄されながらも確信に迫っていく様は読む手が止まりません。ラストも良かったですね。主題歌のタイトルがラストシーンに絡んでくるとはやるじゃないですか。

ただ、本当にこの話はビターです。かなり滅入る展開ばかりで、まさかのメインヒロインも四肢切断のうえ結ばれないのがトゥルーですし……。犯人サイドの狂気が比較的に成就され、多くの伏線を見事につなげながらも敢えてハッピーに持っていかないシナリオは強く評価したいですけどね。各キャラの置かれている境遇を考えると、完全無欠のハッピーエンドではなく、このようなビターな締め方をするほうがよりしっくりくるものです。ですが、精神的には解決したように描かれますが、ふと冷静になると普通の根源的な幸せを求めたくなってしまうのがユーザー真理というもので、やっぱり各登場人物を魅力的に描けているだけにわかりやすいハッピーを用意してくれても良かったなぁ、なんて思っちゃったりもするんですけどね。

また、例えば八木沼の過去話など伏線として投げられたままの話や、紫やステラといったもう少し描いてほしかったキャラなども多々おります。これは今作がカルタグラの延長として描かれたように、今後のイノグレ作品で描かれていくものなのでしょう。このレビューを書いている現在「殻ノ少女2」の制作が決まっているようですので、そういったひとつひとつの作品を越えたつながりに期待したいところです。


【グラフィック】
原画担当は杉菜水姫さん、僕の大好きな原画家さんのひとりです。世界観に会った美しいCGは健在、惨殺シーンや死体の絵まで丁寧に描かれているものですから、本当に良い仕事をしているってなものです。エロゲとしては異質なまでに美しく、艶のある原画に関しては文句なし、圧倒的な原画家さんと言えましょう。 システムとしての捜査パートも面白かったです。ただ、画面クリックでヒントを拾っていくものはちょっとわかりづらかったかな。

デモムービーは作品世界観をうまく表現した非常に美しいものに仕上がっています。ほとんどを白で覆い、主題歌「瑠璃の鳥」とあいまって高い次元でまとまっています。


【キャラクター】
非常に多くの登場人物がいますが、未登場のまま殺されてしまう女生徒たち以外は、シナリオゆえに皆よく印象に残っています。全体的にシリアスですが、夏目さんや森夜月といった、息抜き役を与えられたキャラもいまして、バランス感は見事なものでした。しかし上記しましたが、次々に良キャラが不幸な目に合っていってしまう展開には、なんともいたたまれない思いでいっぱいです。

主人公は時坂玲人、前作と同じ、元警官の探偵です。前作主人公の秋五よりもかっこよいですね。行動力も判断力も男前なところがありますし、また、前作のように彼以上の存在感で場を食ってしまう七七や冬史のようなキャラがいないということもあるかもしれません。彼を支える友人の魚住も、働きとしては申し分ないですが、やはり前作冬史と比べてしまうともうひと踏み込みほしいところでした。

メインヒロインは朽木冬子。自分のルーツをさがす、とらえどころのない女学生です。あどけない声優さんの演技も良い方向に作用していて、飄々としていながらも年相応の不安定さを抱えるキャラ作りは非常に丁寧に描けていました。だからゆえに魍魎の匣よろしく四肢切断での救命、その後も誘拐され行方知れずとなってしまう顛末には切なさが残ります。基本的に、話のメインに立つ櫻羽女子高の生徒たちには、感情移入してはいけません。なぜならほとんど惨劇を受けてしまうからです(涙)。チョイ役といって差し支えない佐藤さんが無傷だっただけで、ほかは全員殺されるか行方不明になってしまいます。特に綴子……。くっ。。。

また、妹の紫や終盤の伏線キャラとなるステラなどは玲人との距離感が絶妙で、素晴らしかった。だからゆえにキャラクターが非常に良かっただけにシナリオで活かしきれなかったところが惜しいですね。

【音楽】
冬の冷気をまとった凛としたBGMの数々が清々しいですね。日常音楽もシリアスなものも非常に良いです。笛の音のメロディ展開が綺麗な紫のテーマ「Lilac」、メインBGM「殻ノ少女」が印象に残っています。そしてなんといっても主題歌「瑠璃の鳥」でしょう。エロゲ主題歌史に残るメロディラインを誇る、秀逸な出来の曲だと思います。


以上、殻ノ少女です。しかし突き抜けてますねえ、このメーカーさんは。あまりにも硬派すぎてエロゲとしての評価は正直しにくいんですが、こういう作品は多くの人にプレイしてもらいたいと思いますね。


関連レビュー: カルタグラ ~ツキ狂イノ病~


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テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

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